結論から言おう
オフサイドをなくしても、ゴールは増えない。
それどころか、
サッカーは今よりつまらなくなる可能性が高い。
それでもオフサイド廃止案が、
何度も議論に上がっては消え、また復活する理由がある。
その理由は
**「得点」ではなく、「判定」**にある。
オフサイド=「点が入らない元凶」だと思っていませんか?
サッカーを見始めた人ほど、
こう感じたことがあるはずです。
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せっかく決めたゴールが取り消される
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VARチェックで試合が止まる
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数ミリの差でオフサイド判定
正直、ストレスが溜まる瞬間は多い。
だからこそ
「オフサイドがあるから点が入らない」
「オフサイドがサッカーをつまらなくしている」
という声は、今でも絶えません。
では、もし本当に
オフサイドをなくしたらどうなるのか?
実は、その答えはすでに出ています。
オフサイドなしの「実験試合」はすでに行われている
2016年、ドイツで行われた
実験的な親善試合。
ヘルタ03ツェーレンドルフ
vs
テニス・ボルシア・ベルリン
この試合では、
オフサイドルールが完全に撤廃されました。
多くの人が予想したのは、こんな展開です。
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FWがゴール前に張り付く
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点の取り合いになる
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5-4、6-5の乱打戦
――ところが、結果は。
1-0。
まさかのロースコアでした。
なぜ、オフサイドをなくしても点は増えなかったのか?
理由は、驚くほどシンプルです。
守備が、極端に引きこもるから。
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ボールを失った瞬間、全員が自陣ゴール前へ戻る
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FWが張り付くなら、DFも張り付く
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中盤のスペースが消滅する
その結果どうなるか。
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パス交換は減る
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ドリブル突破は困難
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ペナルティエリア前が常に渋滞
試合は
ダイナミックになるどころか、停滞する。
オフサイドは
「攻撃を縛るルール」ではない。
中盤という“戦場”を生み出すためのルールでもあるのです。
それでも「オフサイド廃止案」が消えない本当の理由
ここが、最も重要なポイントです。
廃止案が出る理由は、
「点が増えないから」ではありません。
本当の理由は──
判定トラブルを減らしたいから。
VARが生んだ、新しいストレス
VARの導入により、
オフサイド判定は確実に「正確」になりました。
しかし同時に、
新たな問題が生まれました。
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ゴール後、毎回のVARチェック
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数十秒〜数分の中断
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肩、つま先、脇の下…ミリ単位の判定
結果として起きたのが、
「正しいけど、盛り上がらない」
という矛盾です。
ゴールの歓喜が、
一度冷やされてから、ようやく戻ってくる。
この違和感が、
世界中で問題視され始めました。
完全廃止は、サッカーそのものを壊してしまう
とはいえ、
オフサイドを完全に廃止すれば、
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守備がゴール前に集中
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中盤が消滅
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戦術の幅が極端に狭まる
先ほどの実験試合が示す通り、
サッカーの構造そのものが崩れてしまう。
だからFIFAが選んだ道は、
「廃止」ではなく──
**「調整」**でした。
ヴェンゲル案とは何か?
この案を提唱したのは、
元アーセナル監督
アルセーヌ・ヴェンゲル
(現・FIFA国際サッカー開発部門責任者)
内容は、非常にシンプルです。
体の一部でも最終ラインに残っていれば、オンサイド
現在のルールでは、
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体の一部でも出ていればオフサイド
ヴェンゲル案では、
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体の一部でも残っていればオンサイド
つまり、
攻撃側に有利なグレーゾーンを広げるルールです。
なぜ、ヴェンゲル案が注目されているのか?
理由は3つあります。
① ミリ単位の判定が減る
→ VARチェックが短くなる
② ゴールが取り消されにくくなる
→ 感情の盛り上がりが保たれる
③ サッカーの構造は壊れない
→ 完全廃止のような戦術崩壊が起きにくい
すでに一部大会では試験導入が進行中。
2025年現在、正式採用も現実的な段階に入っています。
結論:オフサイドは、サッカーの「骨格」だ
オフサイドは、
サッカーをつまらなくする悪者ではありません。
むしろ、
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中盤を生み
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駆け引きを生み
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戦術を進化させてきた
サッカーの骨格そのものです。
だから、
なくすべきではない。
ただし、
今の形のままでいいとも言えない。
これこそが、
オフサイド廃止案が
「何度も出ては消え、また出てくる」理由です。